保育所の押し入れのなかで始まる男の子2人の勇気と絆で数々の困難を乗り越えていく怖くも熱い冒険ファンタジーです。
小さな子には少し怖い内容ですが、5歳児くらいからは怖さのドキドキ感と手に汗握るハラハラ感がたまらないストーリーだと思います。

作:ふるた たるひ たばた せいいち
出版社:童心社
発行年:1974年
対象年齢:3歳~ 一人で読むなら小学生~
ページ数:80ページ
見どころと感想
保育園にある2つの怖いもの「おしいれ、ねずみばあさん」を物語のテーマにした絵本です。
二人の男の子がおもちゃの取り合いでケンカになり周りの子に迷惑をかけたため、押し入れの中で反省することになり、そこから不思議な世界を二人で冒険することになります。

全体的に描写も物語も少し怖めなので、怖いのが苦手な子には寝る前の読み聞かせにはあまり向きませんが、絵本の子供たちが起こす「これはやってはいいこと、いけないこと」の判断がしっかりと学べる作品です。
物語が80ページに続いて展開しており長編のお話なので一人で読むなら小学校ぐらいからになりそうですが、内容自体は3歳くらいから楽しめると思います。
ただ小さい子には少し怖いかもしれないことと、読み終わるまでに30分以上はかかると思うので、時間に余裕を持って読み聞かせしてあげることをオススメします。
不安から抜け出す勇気、困難を乗り越える力をくれる絵本
著者のふるたさん、たばたさんのお二人のコメントの中に、「子どもには二つの不安があるだろう」と言っている内容があります。
一つは生きることそのものへの不安。
「守ってくれる人なしには生きていけない。」
「あかちゃんとしてこの世に生まれる子どもには、成長するにつれて大きな不安が次々に襲います。」
そしてもう一つは、現代という時代のもつ不安。
「事件や事故、そして戦争。先の見えない不安は、子どもたちにも重くのしかかっています。 本作の中には、こうした不安をねずみばあさんやねずみばあさんの国として登場させているのです。」とあります。
「」内文章出典元:童心社HP おしいれのぼうけん特集ページ
この不安の象徴であるねずみばあさんから、ただ逃げるだけではいけないこと、怖くてもそれに立ち向かい闘う勇気、乗り越えようとする力こそ現代をたくましく生き抜くために必要な物なのだと感じました。
子どもたちのもつ二つの不安、それを乗り越えていくのは、他ではなく自分自身です。
けれど一人では、どうしても立ち向かえないこともあるかもしれません。
そのために、この絵本の主人公は2人にしているのだと思います。
たった一人で立ち向かえないなら、2人で手を取り合って乗り越えよう。
男の子は二人の絆があったからこそ、足がすくんでも走り出せたし、くじけそうになった時でも、手を取り合って最後まであきらめずに困難に打ち勝つことができたのだと思います。
自分が挫けそうになった時、大切な人が立ち上がれなくなった時、迷わず手を差し伸べられる人になること、そしてどんなに困難な道でも通らなければならないのなら逃げず、あきらめずに最後まで戦い抜くことの大切さを肌で感じ、自然と学べる作品です。
作品を作り上げるまでの過程が素晴らしい
著者のたばたさんは画家であり子どもそのものを描きたいと考え、いろいろな画材や手法を試されたそうです。
そして著者のお二人で保育園に実際に取材に入り子どもたちの生活や遊び、園内の景色や雰囲気を見て回り話し合いを重ねて、絵本を鉛筆1本で描くことを決められたそうです。
この鉛筆一本で描かれた世界が実に素晴らしく、最大の敵であるねずみばあさんの存在感や子どもたちの躍動感が見事に表現され、物語の中にぐっとひきこまれていきます。
完成された絵本の世界観に子どもたちが夢中になるからこそ、話にドキドキし次の展開にワクワクしながら50年近くも支持されているのだと思います。
そして押し入れの世界から現実世界に戻ってきた二人は迷惑をかけてしまった園児たちにきちんと謝ります。
間違ったことをしたら友達に謝る、仲直りする、そういう基本的な人付き合いに必要なことも、この絵本からは学べます。
読み聞かせするには、少々物語が長めの絵本ですが、著者の徹底したこだわりから生まれた描写や考え抜かれたストーリーは一見の価値がある素晴らしい作品だと思います。
小さな子には読み聞かせ、小学生からのお子さんには一人で読むのにと長く楽しめる絵本なので、ぜひ手に取って読んでみてください。オススメです。
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